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梅雨空の下、笑う不機嫌男

2009年06月26日 02:23

オレは今、行きつけの店でアイスコーヒーを飲みながら、煙を吐いている。
それでも手持ち無沙汰なので、窓の外の景色や、たいして面白くもない本をなんとなく眺めていた。
だが、退屈しているわけではない。
時間がゆったり流れるのを楽しんでいる。
いつもは不機嫌なこのオレも、この”時間”だけは特別だ。
なにも考えないでポカンとすることも出来れば、とりとめもなく思いをめぐらせることも出来る・・・まったく自由な時間。

だが、そんなオレだけの”時間”が唐突に乱されることもある。

ある日、こんなことがあった。

「お待たせしました。」
まだ若い、女性の店員さんが注文した品を持って来てくれた。
おそらく最近働き始めたのだろう、なんとなく動作がぎこちなく、まだ慣れてない感じがした。
オレは礼を言い、読みかけの本を閉じ、目を上げる。
・・・が、何か違和感がある。
注文したものと違うものが目の前にあるのだ。
オレは、レシートを見てみた。やはり、違う・・・。
自分がメニューを言い間違えたわけではなさそうだ。明らかにお店の方が間違えているのだ。
ま、言えば、すぐ取り替えてくれるだろう・・・と、さっきの店員さんにオレは声をかけた。
彼女をこわがらせないように、・・・そう、我が家の家訓にしたがって。(6/7参照)
それに、おそらく新人であろう彼女に、妙なトラウマを残してはいけない。
なるべくやさしい口調で、レシートを見せながら説明した。

すると彼女は、どう対応していいのか分からぬといった体で、あたふた、あたふたしだした。
彼女の顔から、見る見るうちに血の気がひいていくのがわかる。
そして「すいません、すいません!」と連呼する。
何かのスイッチが入ったかのように、しきりにレシートと現物を見くらべては自分の額に指を当て、なにやら考え込んでは、また「すいません、すいません!」と、壊れたように何度も頭を下げる。
この一連の動作を何セットも、何セットも繰り返すのだ。
完全にパニックに陥っている!

これには、オレの方が面食らった。
すぐに取り替えてくれるもんだろう、と気楽に思っていた。
だがパニックの彼女を見ているうち、なんだかオレの方が悪いことをしてしまったような気になってきた。
”いや、しかし、オレ、なんか間違ったことは言ってないよね?ね?”とオレはもうひとりのオレに問いかけてみたりする。
だが、あらためて彼女の様子を見たら、やはり、一連の動作の真っ最中だ。放っといたら永遠に詫び続けるのではないか?と心配になるほどだ。
そして、そのうちにだんだんと、罪悪感すら感じ始めるようになってきてしまった。
”もっとベテランの店員さんに言うべきだったんじゃないか?ああ、なんてかわいそうなことをしてしまったんだ・・・本当に気の毒なことをしてしまった”と、なんとも不思議な葛藤に、今度はこちらがあたふたとなる。
「あ、コレでいいよ。コレ、おいしそうだし・・・、食べちゃお。うん。コレ、おいしいよ?うん、これでいいッすヨ!」などと、彼女のパニックを治めることに、オレは懸命になった。
そして結局、間違ったままではあるが、全部食べた。
味など・・・覚えちゃあいない・・・。

別の日、いつものように店に入ると、なにやら・・・視界が白い。そして、煙たい。
厨房からのようだ。
ふっとのぞいてみると、そこには例の店員さんが・・・。なんか焦がしているぞ。
大丈夫か、オイィッッ!?

そんなことが、たびたびあったので、オレは密かに彼女のことを”駅前店のドジっこ”と呼んでいた。
それが、約一年前の話・・・。


最近ではオレの顔を覚えてくれたのだろうか、顔をあわすことがあると、遠慮がちではあるが、気さくに挨拶をしてくれる。
今朝も、オレが頼んだアイスコーヒーを運んできてくれた時、挨拶を交わした。
普段は無愛想なオレも、この時ばかりは、照れながらも自然と笑みがこぼれる。
この店で働き始めて一年たち、仕事にも慣れ、後輩も出来て指導する立場になったこともあってか、彼女の笑顔には静かな自信が宿っている。
もう、”ドジっこ”などとは言わせない・・・と、オレが勝手にそう呼んでただけだが、それにしても、この成長ぶりはどうだ!

仕事は人を成長させる・・・

いつもの特別な”時間”をすごすオレは、彼女のその笑顔に感動を覚えつつ、窓の外に目を見やる。
梅雨の空を厚い雲が覆っていたが、オレの気分まで曇らせることはなかった。
そして、オレも彼女にならい明日は笑ってみようか、などと似合わぬことを考えてみたりする。
もっとも、知り合いたちは気味悪がることだろうが・・・。

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